6月号 介護サービス事業の改革 

2022年06月01日

業者の現場の意見を聴け

介護事業所をめぐる改革が必要だが,法令の改正に,事業者の現場の意見が反映されていない。2000年にスタートした介護保険事業は,介護を必要とする高齢者が急増し,2025年団塊の世代全員が75歳に到達する。社会保障費の増加は高齢者に応分の負担を求めるようになるし,年間10兆円を超える給付を受けている事業者への締め付けも強まる。

 国や地方公共団体は,営利企業にも介護業界に自由な参入を認めていたが,総量規制の名のもとに新規の参入を拒否しはじめる。従来の事業者についても,更新拒否による制限をかけるなど不公平な自由競争に傾斜している。

 法令の遵守は事業者の当然の義務であるが,法令の策定や法解釈の場に,事業者の参入を許容しない限り,行政による行政のための法改正が続く。

 指定取消処分など行政処分は,ある意味,法令を遵守している事業所保護のために,身勝手な事業者を是正・排除する機能を有していた。しかし,最近は,革新的な改革をしようとして行政と意見が異なる事業者に対し,行政の古い考えを押し付け,違法とはいえないのに,見せしめ的に処分を発令する例もある。

 事業者は,高齢者の増加,従業員の不足,法令改正よる複雑となった介護保険制度の維持のために,革新的な技術開発や,経営努力を余儀なくされている。

 特に経営の安定化のため人件費を適法に抑制する観点から,人員配置に工夫を凝らす必要がある。

AIによる介護の分析や,介護ロボットの活用など革新的な技術が登場しつつあるが,人員配置基準など法令の解釈は形式的にすぎないうえ,地方公共団体により異なる解釈をするケースがある。通所介護の看護職員の配置は法令が「看護職員確保」にとどめているのに対し,自治体では「看護職員の現実配置」と解釈し負担が増えるケースなどはその例である。

 事業者は人員配置基準に解釈に疑問があっても,行政には届かない。多くは不当な処分を恐れ,行政のローカルな解釈に押し切られている。

 事業者は,革新的な技術導入や改革など,国の基準に関する自治体の恣意的な解釈には,毅然として対抗してほしいが,それは行政の指導監督のもとではリスクが大きいのである。

 そのためには,事業者の意見を聴くべきだ。たとえば,利用者の要介護度の認定は,コンピューターによる一次判定と,専門家による短時間の検討で決まる。現場サイドの意見が反映されていない。これではいつまでも利用者のためにはならないだろう。