9月号 介護行政の調査と税務の調査の共通点

2021年09月01日

 公的機関が,徴収や処分をする情報を収集するため民間人に調査をする例としては,主に税務調査があります。この税務調査と介護の行政調査は主体や目的などは,確かに違うのですが,調査の仕方は似ています。

 一般的に行政調査とは,行政がおこなう情報収集のことです。介護行政が民間事業者の監督としておこなう行政調査は,実地指導(任意調査)と,監査(間接強制調査)があります。これに対し,適正な税金徴収目的でおこなう税務調査には,令状による査察もありますが,通常は税務署職員が納税者に対して行う調査です。

 税務署の調査には,質問検査権としておこなわれる質問検査権調査(間接強制調査)と,単なる行政指導またはその準備として行われる調査があります。

 国税の場合,令状によりおこなわれる査察制度(犯則調査)もあり  ますが,それを除く行政調査については,国税通則法という法律で,行政調査の詳細が定められています。介護保険法の場合,任意調査(実地指導)と,間接強制調査(鑑査)に区別されています。

 注意すべき点として,行政調査は,民間事業者に対する侵害的要素があることです。税務調査はそれ自体が納税者からみると営業妨害,又は人権侵害のおそれがあります。介護行政調査も同様に,営業妨害又は人権侵害のおそれがあるのです。

 介護保険法23条は任意の調査だとされています。任意調査であっても,場合によっては人権侵害のおそれがあります。

 ただ,任意ですから調査拒否(応答拒否)に不利益措置や罰則適用はありません。この点は事業者にとって利益です。たとえば警察官職務執行法は,挙動不審を職務質問の要件としていますが,職務質問は任意ですから,理由もないのに職務質問はできないわけです。とにかく,自由な裁量による行政調査は認められません。これは,憲法13条(幸福追求権),31条(適正手続保障)の人権保証規定から導かれます。

 罰則には法令の根拠が必要

 原則,調査拒否に対してペナルティを課すためには,法令の根拠が必要です。税務調査は, 事前に,明示された質問検査権の行使に対する応答拒否に対してのみ,罰金等の制裁を課す事が可能です。介護保険法は,法76条1項・78条の7第1項の規定による検査の場合は,応答拒否に,不利益措置又は罰金を課すものとしています。

 事前の告知と理由の告知

 税務調査には,①事前告知と②事前説明を要します。国税通則法74条の9にその規定があります。介護保険法の調査にも「保険給付について必要あるとき」「介護サービス費の支給に関して必要があると認めるとき」という制限があります。ですから「運用状況を調査したい」「所得金額の確認をしたい」というだけでは,足りないわけです。

 行政調査は,間接強制調査であっても,事業者の任意の協力のもとで行われます。事前に調査に入ることを告知したら,証拠隠滅がおきるから無告知で調査できるということにはなりません。

 調査拒否と制裁

 応答拒否などは不利益措置又は罰金の対象となりますが,①事前告知と②事前説明をしていないと,不利益措置,罰金を科すことはできません。

 直接強制 

 行政調査で,行政職員が直接,証拠を押収したり提出強制することはできません。国税の査察の場合令状により捜索・差し押さえが可能ですが,それは刑事訴追を目的としたものでなければならないということです。