介護裁判新聞5月号

2019年05月15日

行政調査の盲点
行政は,適正な指導・監督をするには,情報収集が欠かせない。公権力による事業者情報の収集活動のことを,行政調査というが,盲点ともいえるいくつかの問題がある。

行政調査には,任意調査,間接強制調査,強制調査がある。

介護保険法でいえば,23条調査は,任意調査だ。被保険者に対する調査を補完するため事業者に調査を行う。税務調査でいう反面調査に相当する。任意のものだから,強制立ち入り権限はないし,質問に答えなくてもよいし,虚偽答弁をしても罰則もない。でも,実際はあたかも強制調査のように立ち入りをし,嘘をつくと指定を取り消すなどいわれることもある。

 間接強制調査は,法76条1項や78条の7第1項,115条の34第1項による。監査と呼ばれる行政調査のことだ。立ち入り検査を妨害したり虚偽答弁をすると罰則がある上,監査妨害は独自の指定取消事由とされている。ただし,職権発動の要件があって「介護サービス費の支給に関し必要があると認められるとき」でないと,この調査はできない。

 強制調査というのは,直接捜査することができるもので,立ち入りして,帳簿書類などを直接調べることができる。警察の捜査に近いが,介護保険法による行政調査には,このような強制調査は認められていない。たとえば,行政職員が,事務所に立ち入り,勝手に事務所内のパソコン画面を開いたり,マウスをつかって情報を調べることはできない。

 行政調査は,法律の盲点となっている。自由自在に行政調査がおこなわれることも多い。事業者は,注意すべきだ。

公法上の法律関係

介護保険法は,指定を受けると事業者は,介護サービス費の支給を受けられる。これはどのような法律関係か。

「指定」は事業の開設許可とは違う。介護サービス事業所は,指定を受けていなくても事業所を開設してもよい。ただし,介護保険からサービス費の支給を受けたいときは,申請をして,行政庁から指定を受ける必要がある。指定を受けると,地域密着型の場合,指定をした長の属する市長村が保険者となり,被保険者である利用者がサービス提供を受けた限度で,事業者は,市町村から保険給付にかかる支払いを受けることができる。

 事業者は,市長村から委託されたものではない。このような公法上の法律関係を理解しておくことは大切だ。

 指定の効力を停止されたり,指定を取消す処分を受けると,事業の運営はできるが,介護保険から支払いを受ける権利を失う。指定取消は行政処分だが,まちがった処分でも,取り消されるまでは有効としてあつかう。指定取消処分は,許認可の取消しと同じく行政処分なのである