介護裁判新聞     災害臨時号

2020年07月08日

近年全国のあちこちで,高齢介護施設が災害非難に遭っており,そのたびに,大勢の利用者が亡くなっている。今回のケースは洪水であるが,ある意味,人災である。早めに逃げるべきだからである。

厚生労働省の解釈通知は,前記26条について,「万全を期さなければならないとしたもの」というが,人の命に直接かかわることであるから,万全を期すのは当たり前である。気になるのは,厚生労働省の課長通知では,主に火災対策とされていることである。たぶん,介護施設の火災がかつて社会的ニュースとなったからだと思われるが,人吉のケースは最近毎年のように起きる水害である。地球温暖化による線状降水帯による仕業である。消防対策に防火管理者が決められるのと同じく,水害対策として水害管理者の設置が急務である。

私の経験から言わせてもらえば,この介護施設に対して,行政処分はあると思う。多くの利用者が死亡したからだ。省令26条違反を理由に,行政庁は何らかの処分をするだろう。改善命令あたりで済むのか、もっと重い処分になるのか...。

★水害対策の管理者を

2020年7月,熊本県人吉市にある特別養護老人ホームを洪水が襲い,14名の入所者の生命が奪われた。原因は午前3時頃付近の球磨川が氾濫し,施設の1階が浸水。

介護保険法は,法規命令という立法テクニックを使い,厚生労働省に丸投げするという,災害対策の規定がある。

特別養護老人ホームは,法律上,「介護老人福祉施設」という。介護保険法89条3項の委任を受けて,厚生労働省は,「指定介護老人福祉施設の人員,設備及び運営に関する基準」を定めているが,その26条に「非常災害対策」という規定がある。読むと「指定介護老人福祉施設は,非常災害に関する具体的計画をたて,非常災害時の関係機関への通報及び連携体制を整備し,それらを定期的に従業者に周知するとともに,定期的に避難,救出その他必要な訓練を行わなければならない」と規定する。

もっともな規定であるが,その特養でも計画自体はあった。連絡体制の整備もなされていた。職員に周知もされ,訓練も一応おこなわれていたようである。ただ,今回の洪水は,深夜3時頃におきていた。

線状降水帯の発達を予測するのは難しい。避難訓練を深夜3時におこなったことはないだろう。連絡体制といっても皆寝ている時間帯である。救出を求めても救助が遅れたのは無理からぬこと。ただ,人吉のケースでは,地元の有志が果敢にもゴムボートで救出活動をおこなっていた。不幸中の幸いであるが,それでも大勢の犠牲者が出ている。

こう災害が多いと、私達も見方を変えなければならない。近年の大雨を振り返ると,球磨川が氾濫する危険性はわかっていたはずである。そうであれば,行政も施設だけの責任にするのではなく,日頃から非常時の災害対策についてともに検証しておかなければならない。