11月号 いのちの砦は早期対応
1 行政処分や指導を受けるか、受けないか。それは調査の段階がとても重要です。なぜなら、実地指導や監査というのは,行政が行う情報収集活動で,行政処分や指導をおこなうには,この情報収集が欠かせないからです。しかし,多くの方がご存じないように,その段階で将来の処分の有無・内容はほぼ決められてしまいます。
行政処分は日本の法制度では「公定力」があります。これは,間違った処分であっても,のちに撤回されるか,取り消されるまでは関係者全員が有効として扱わなければならないというものです。日本の行政は行政分野の別を問わず,この公定力を徹底して活用していますので,行政処分を裁判で争うことは不可能に近いほどむずかしいのです。
そうしますと,行政がまちがった情報収集活動をしているときは,早々にその段階で,専門弁護士による救済が必要となります。処分を待ってからでは遅いのです。もし,まちがった処分がされてしまうと,現実には,あとから取り消そうとしても到底無理なのです。
2 2021年の早期対応実績
当事務所が扱った事件で,早期対応により利用者へのサービス提供を継続し,その被害を低減することができた事業所があります。
長崎県の放課後等デイサービスの事案では,事業者が監査の段階で事業廃止の届け出をしたあと,行政が指定を取り消す目的で聴聞にかけていたケースがありました。行政はその事業所に,早々に聴聞を終了して処分をしようとしましたが,弁護士が代理人として出頭し,聴聞を続行させて,法律上は,090指定取り消し処分ができない状況となりました。
愛知県では,監査の途中で事業廃止をし,新法人を立ち上げて,新規の指定をとることで利用者へのサービス提供を継続できた事例があります。障害者総合支援法の事業所ですが,事業廃止は1か月の期間が必要ですので,その間に,新法人の立ち上げと,新規の指定申請をすみやかに行いました。事業廃止の届け出は,原則として事業者の自由ですが,監査のあと10日以内に,聴聞決定予定日の通知が発令されていますと処分逃れ目的の事業廃止とされるおそれがあるため,その判断はきわめて慎重におこなう必要があります。
群馬県では,代理人弁護士として,放課後等デイサービスの監査時,職員さんに同席し,立ち会うことができました。職員への聞き取り質問権の行使の際の立ち合いです。まだ監査の結果はみておりませんが,あやまった情報収集がされないように監視することで,まちがった処分を受けないように,正しい方向に向かうことができると思います。
2 当事務所は,2007(平成19)年から介護保険法の介護事業所,障害者総合支援法の障害福祉サービス事業所,児童福祉法の児童福祉サービス事業所の相談を受け続けています。これまでは,相談のあった段階で,処分を受けていたとか,処分を受ける直前だったことが多く,時機に後れてしまい救済困難でした。
より早期の相談がきていれば,法令上の争点をはやく見つけ出して実地指導や監査という行政調査の段階で対応できたものです。
事業者にとって,いのちの砦は,「行政調査という早い段階で,いかに適切な対応をとることができるか」に尽きると思います。