介護裁判新聞7月号     生活保護(介護扶助対象者)と介護事業所

2020年07月06日

ある行政が,事業者に介護保険の不正利得があるといって,その指定を取り消し,不正利得額1800万円を徴収するとして処分しました。1800万円満額市が徴収しました。ところが,その介護施設の利用者のなかに65歳未満の生活保護の方がいて,健保等未加入だったため,900万円が保護費から支給されていました。65歳未満の生活保護の方については,介護扶助費の返還について,市長ではなく,福祉事務所長が徴収するのですが,それを失念していました。

債権回収の段階になり,徴収債権1800万円のうち,900万円は介護保険法22条3項の規定による徴収金ですが,残り900万円は福祉事務所長が徴収すべき介護扶助費だということがわかりました。これはどうしたものでしょうか。

これは事件だと思います。本来は国庫に戻すべきお金が,市の歳入となった疑いがあるからです。どうしてこのようなマチガイがおきるのか。推測ですが,たぶん,市役所の長寿社会課と福祉事務所とのコミュニケーションが不十分だからではないかと思いますが,いかがでしょうか。

★一般の利用者と生活保護(介護扶助対象者)の方は、徴収債権的には一緒にしてはいけません

介護施設には,生活保護受給者の方がおられます。介護保険の被保険者ではなく,介護扶助の対象です。生活保護の方で65歳以上の1号被保険者ですが,40歳から65歳未満の方で,健保組合など未加入の方は,全額,保護費から支給されます。

利用者という立場は1号も2号も同じですが,さまざまな点で違いがあります。

違いの1つに行政の担当部署がちがいます。介護保険は,市町村役場の介護保険課ですが,生活保護は福祉事務所です。行政の担当部署が違います。

生活保護の方の場合,事業者が意識するのは,介護計画書を毎月福祉事務所に提出し,報酬請求に介護券が必要だということでしょう。それを除くと,日常のサービス提供は,介護扶助対象者だろうが介護保険の被保険者だろうが同じです。人に変わりはありませんから。

ところが,行政処分されると違いが鮮明になるようです。一番の違いは指定庁が異なります。介護保険の指定庁は,市長村長(都道府県知事)ですが,生活保護の指定介護機関は,福祉事務所長です。

介護報酬の返還となりますと,途端に話がむずかしくなります。不正請求があると認定されたとき,行政が不正利得の徴収をする根拠は,介護保険法22条3項の規定です。介護扶助費の不正利得の返還は,生活保護法78条2項という規定です。生保78条2項は,平成25年の改正により平成26年10月から施行されていますから知られていないようです。