介護裁判新聞11月号

2019年11月11日

過誤返戻の謎

過誤返戻は,そのようなバイパス道路を通らないで,私債権として支払いを求め,事業者に過去の請求を取り下げさせて,その分を支払わせる。法22条3項の徴収権を行使した結果,事業者が係る徴収権の行使にしたがい,その分を支払うのであればわかる。でも,そうするには行政も手間がかかる。算定要件に関する法令違反があるか調査も確実におこない,徴収権の行使に関して不服申し立ての便宜を与えないと行けない。法22条3項の規定による徴収権の行使は,不利益処分と解されるから,行政も手間ヒマかかる。


行政は,そのような面倒をさけるため,過誤返戻という便宜的な方法がとるのではないか。そうだとすれば,違法な手法だと思う。

訴訟上の争い

高額な過誤調整は,違法の疑いがある。公権力による財産権の侵害だ。訴訟上争いが生じている。


過誤返戻という言葉をご存じだろうか。わかりやすくいうと,行政が,介護サービス事業者運営会社に対し,介護保険給付の全部又は一部の返還を求めること。返還額は,高額なときは,一千万円を超えることもある。

この高額介護返戻には,問題がある。

介護サービスの提供の対価を,保険料から支払う制度。保険料は,40歳以上の国民全体で負担し,要介護・要支援となった高齢者にかかる費用を,みなで負担しようとするもの。不正な請求がある時は,行政は,裁判などしないで執行できるようにするため,介護保険法22条3項の規定を置いた。行政はその判断により強制徴収ができる。

ところが,行政の多くは,この規定により強制徴収することをせず,実務上あいまいな返戻をさせている。それが,過誤調整という変則的な方法だ。

事業者に過去の請求を任意に取り下げさせて,任意に返還を求める手法だが,多くの事業者は,介護調整の求めに応じないときは,行政処分されるかもしれないとおそれている。

 最高裁判例には,強制徴収可能な規定があるときは,行政は,それ以外の方法,たとえば,民事訴訟を提起して返還等を求めることはできないという。

にもかかわらず,行政が同項の規定をつかわず,過誤返戻という便宜的な手法をつかうことが許されるのか。

最高裁は,かつて,法律が公債権の徴収に関し簡易迅速な権利実現の方法をつくったのだから,その規定を使うべきであり,わざわざ私債権として民事訴訟を提起することは許されないと判示した。これは,バイパス理論とよばれる。同じ目的地まで行くときに,かんたんに目的到達できるバイパス道路があるのと似ている。