3月号 法人代表者も取消訴訟ができる

2022年03月14日

新しい課題

東京高裁は,令和3年12月,法人の介護事業所が指定取消処分を受けたとき,法人だけではなく,法人の役員も処分取消訴訟が提起できることを認める判決をしました。

これは,法人が運営する地域密着型介護サービス事業者が,行政庁から指定を取り消されたケースです。

代表取締役社長が,取消を知って,自分の名義で裁判を起こしました。弁護士に頼まずに,自分で訴訟を提起して処分の取消を求めたのです。一審の前橋地裁は,役員の訴えを却下しました。法人が運営する介護施設が,行政庁からその指定を取り消された場合,その法人が処分の取消しを求めることができるか,法人の代表者自身は,当事者としての適格性がないとして,代表者個人が起こした訴えを却下しました。法人が起こした処分の取消請求は,理由がないとして請求棄却。

そこで法人も,代表者個人も,ともに控訴しました。 

控訴審である東京高裁は,法人以外にも,法人の代表者が,指定取消処分の効果として介護保険法78条の2第4項6号の適用を受けるので,訴えの利益があると。簡単にいえば,法人の役員も,介護市場から退場されられるのです。

法78条の2第4項6号というのは,行政庁が指定をしてはならない理由の中のひとつです。

法人役員の被る不利益が事実上のものか,法律上のものかは法令解釈の問題ですが,法78条の2第4項6号では,指定地域密着型介護サービス事業所が,指定を取り消された場合,法人役員は,行手15条通知のあった日前60日以内から,指定の取消を受けた日から起算して5年間の間,別法人の役員として地域密着型サービス事業所の指定を受けることができません。

これは重大な不利益です。当該法人役員は,指定取り消し処分を受けた法人ではない法人の役員に就任して,新しく法人が指定の申請をしたとき,新法人が新規の指定を受けることができないおそれがあるからです。

法人役員は,行政庁から当該法人が不利益処分を受ける場合,役員固有の権利・利益を主張して争う機会が保障されなくていいのか。

事業所が指定取消しを受けようとするとき,聴聞手続をとる必要があるが,会社だけではなく,会社代表者個人も,処分の名あて人として,告知聴聞を受ける権利があるはずです。

これは,新しい問題提起です。法人だけではなく、役員個人も争うことができるなら、これからの新しい展開になるでしょう。