7月号 行政調査の瑕疵と行政処分の有効性

2021年07月14日

1 介護保険法が施行されて21年になる。介護保険法の課題の一つに行政調査がある。

 行政調査とは,行政庁が指導監督権限を行使するため事業所等から基礎資料の収集をおこなうことをいう。警察でいえば捜査にあたる。実地指導や監査は,行政機関による捜査のようなものである。

 サービス内容を調べる目的で,帳簿書類を検査したり,介護職員から話を聞いたりする。介護保険法など法令は,人員配置基準を定めているから,必要な員数または勤務時間を満たしているかが行政の関心事となる。

 行政機関は,いつ,だれから,どんなふうに調査するか,行政調査を何の制限もなく自由にすることができるか。答えは「否」である。行政機関の行為を一般的に規制する法律に「行政手続法」があるが,監査などの情報収集に関する行為は同法の適用除外とされている。一般的な規制がなければよいかというとそうではなく,個別法のなかに,行政調査に関する規定がおかれている。介護保険法もそうだ。介護保険法は,行政庁に指定の付与をする権限を与えて,一方では,行政庁による監督権限を強化している。つまり,悪いことをすれば,指定を取り消すこともできますよというものだ。そこで,事業者は行政から「ここはへんだ」と目をつけられないように,法令遵守に励むのだが,もしも行政から法令違反を指摘されたらどうするか。これが行政リスク管理の問題だ。

2 設問 甲株式会社は,通所介護(デイサービス)を運営する法人だが,ある日,行政から「介護保険法23条の実地指導」ですといって,施設内に立ち入りをされた。行政職員は事業所の職員たちに「質問に対して虚偽の答弁をしたり,虚偽の報告をしたりすると,指定取消しなどの行政処分の対象となりますよ」と言って,その職員たちを脅かして調査をおこなった。その結果,自白を強要されて,不正請求があることがわかったが,行政庁は,甲社に対し,その事業所の指定を取り消す処分をすることができるか。指定取消処分がなされた場合,甲社は,裁判所に対し,その処分の取消しを求めることができるか。

2の回答

 これには①調査と処分とは異なるから,調査に違法があっても処分の有効性に影響しないという考えと,②調査に著しい違法があるときは,のちの行政処分も違法となるという考えがある。

 結論からいうと,設問では,行政職員がウソを言っている。実地指導に虚偽の答弁があれば指定の取消原因となるという規定はないからだ。

 介護保険法23条の規定がそれだ。23条に基づく実地指導の場合,虚偽答弁に対する罰則とか不利益措置の規定はない。ということは,実地指導のときに虚偽答弁があっても直ちに行政処分を受けるわけではないのに,あたかも,そうなるかのように説明した行政職員のほうが違法だということになる。

 つまり,実地指導は違法であるから,虚偽答弁に対する不利益措置はできないから,もし,そのような違法な行政調査によって処分がなされたときは,裁判所にその処分の取消しを求めることができる。