7月号 日本版DBSのキモ

★日本版DBSは、こどもたちを性犯罪から守るための新しい仕組みです。ご承知のとおり、放課後等デイサービス(放デイ)や児童発達支援などの障害児通所支援事業所は、学校や保育所等と同様に、本制度の対象となります。事業者は、GビズIDの取得やシステム登録など、制度開始に向けた準備が必要になります。
本来、他人の犯罪歴を調べることはできません。しかし、日本版DBSは、こどもの安心・安全を守るために設けられた特別な制度です。
制度の内容はやや複雑ですが、本稿では放課後等デイサービス事業者に関係する「キモ」の部分に絞って解説します。
★この制度の目的は「予防」
まず重要なのは、この制度の目的です。
日本版DBSは、性犯罪者を探し出したり、過去の犯罪歴を暴いたりする制度ではありません。
あくまでも、こどもに対する性被害を未然に防止することが目的です。
そのため、事業者に通知される情報も限定されています。
例えば、
どのような事件を起こしたのか
被害者が誰だったのか
犯行の具体的内容は何だったのか
といった情報は通知されません。
事業者が確認できるのは、
対象となる性犯罪前科の有無
禁錮刑(拘禁刑)か執行猶予付き判決か
裁判確定日
など、法律上定められた範囲に限られます。
★放デイ職員は従事前の確認が必要
2026年12月25日以降、放課後等デイサービス等で、こどもの支援業務に従事する職員については、原則として業務に就く前に性犯罪歴の確認を行わなければなりません。
確認を怠った場合には、行政指導や勧告、公表等の対象となる可能性があります。
「知らなかった」「確認するのを忘れていた」という言い訳は通用しません。
事業者には、制度に対応するための体制整備が求められます。
★本人保護のための「中止制度」
もっとも、この制度は本人の権利保護にも配慮されています。
対象となる性犯罪前科が存在する場合、その情報は直ちに事業者へ通知されるわけではありません。
まず、本人に対して通知が行われます。
その結果、本人が
「こどもと接する業務への就職をやめる」
あるいは「応募を辞退する」という判断をした場合には、事業者への情報提供手続を中止することができます。
これがいわゆる「中止要請」です。
本人としては、自らの前科情報を事業者に知られたくないと考えることもあるでしょう。
一方で、制度の目的はこどもへの性被害の防止です。
本人がこどもと接する業務に従事しないのであれば、その目的は達成されることになります。
そのため、中止要請がなされた場合には、DBS情報は事業者へ通知されません。
情報を持っているのは法務省
前科情報を管理しているのは法務省です。
事業者が直接法務省に問い合わせるわけではありません。
事業者は、こども家庭庁を通じて必要な確認を行う仕組みになっています。
実際には、多くの職員については「該当なし」となるでしょう。
また、仮に万引きや窃盗などの前科があったとしても、それが対象となる性犯罪でなければDBS情報には記載されません。
もちろん、そのような情報が事業者に知らされることもありません。
★対象となる性犯罪は意外と広い
対象となる性犯罪は、一般の方が想像するよりも広範囲です。
不同意性交等罪や不同意わいせつ罪だけではありません。
各都道府県の迷惑防止条例違反なども対象に含まれる場合があります。
どの犯罪が対象になるのかについては、こども性暴力防止法に詳細な規定があります。
また、有罪判決には執行猶予付き判決も含まれます。
★DBSでも分からないこと
もっとも、日本版DBSは万能ではありません。
例えば、過去に性犯罪の容疑で逮捕・勾留されたものの、最終的には不起訴となったケースについては、DBS情報には反映されません。
つまり、
「逮捕された事実」「捜査を受けた事実」だけでは確認できないのです。
これは刑事司法の原則からすれば当然ですが、一方で、
「捜査が不十分だった場合はどう考えるのか」
という議論もあり得るところです。
また、前科情報は永久に残るわけではありません。例えば、対象となる性犯罪で有罪判決を受けたとしても、一定期間が経過するとDBS情報から消去されます。
制度上は更生の機会を保障する趣旨ですが、「かなり昔の性犯罪歴は確認できない」
という点は理解しておく必要があります。
★放デイ事業者の事務負担は確実に増える
放課後等デイサービス事業者にとって最も大きな問題は、実務対応かもしれません。
性犯罪とは無縁と思われる職員であっても、業務に従事する前には確認が必要になります
放デイ業界では、急な退職や人員不足は珍しくありません。
しかし、人員基準を満たさなければ報酬減算や運営上の問題が生じます。そのため、
「急いで採用したい」という場面は少なくないでしょう。
ところが、日本版DBSでは、原則として業務開始前の確認が必要です。
そこで問題になるのが、「確認を待っていたら現場が回らない」というケースです。
いわゆる「いとま特例」
この点については、ガイドライン上、「やむを得ない事情」がある場合の例外が設けられています。
実務上は「いとま特例」と呼ばれることもあります。
例えば、
- 急な退職者が発生した
- 人員欠如が迫っている
- 利用者への支援継続のため緊急採用が必要
といった事情がある場合です。このような場合には、業務開始前に確認できなくても、従事開始後3か月以内(例外的には6か月以内)に確認を行うことが認められています。
ただし、「後で確認すればよい」という話ではありません。
確認が完了するまでの間は、こどもと一対一にしない、単独で送迎させない、他職員の監督下で業務を行わせる
などの必要な安全措置を講じなければなりません。
制度は非常に細かく設計されています。
★おわりに
日本版DBSは、単なる前科確認制度ではありません。
その本質は、こどもに対する性被害を未然に防止するためのリスク管理制度です。
一方で、事業者には新たな事務負担や運営上の対応が求められることになります。
特に放課後等デイサービス事業所では、採用手続、就業規則、研修体制、事故対応ルールなど、多方面にわたる見直しが必要になります。
『施行日は2026年12月25日』
制度開始まで残された期間は決して長くありません。
今後も国や自治体からガイドラインや運用通知が順次公表される予定ですので、最新情報を確認しながら準備を進めていただきたいと思います。